アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ

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May

10

2012

春の大奮闘 G、ある懸念

産室を母子だけにして、遠くから離れて見守っていると、
なんとか母馬は私が間に入らなくても、
仔馬に授乳することは慣れてきたような感じだった。

だが、まだ完全には安心できず馬小屋の作業をしながら、
産室の前を通り過ぎる度に親子の様子を観察した。

そうこうしている内に、気になることが二つ頭をよぎった。

1つは、母馬は仔馬に授乳を許すまでになったが、我が子に関心を示さないこと。
もう1つは、母乳の量が充分足りているのか、
ということだった。

本来、出産直後の母馬なら、
仔馬がお乳を飲んでいるときにそのお尻にそっと鼻を近づけて
我が子を確認するような仕草をしたりするがその行動が全然見られない。

この母馬からは、
「おっぱい飲みたければ、勝手にどうぞ。」
という声が聞こえてきそうな素振りだ。

また、普通なら母馬が必ず仔馬にする、
「フルルルル・・・」と優しく鼻を鳴らすようなこともしない。
母馬からは我が子に対しての関心や愛情表現が見られないのである。
それは完全に絆ができてない、という証拠でもあった。

10年越しの付き合いになる繁殖牝馬のガナーズモールは、
私に対して完全に心を許してくれてはいるが、
出産して2〜3日は、私でも仔馬の側に近寄るのは警戒する。

まだ、仔馬の動きがおぼつかない内は、
私と仔馬の間に立って自分の体で我が子を隠してしまうのが常だ。

ガナーズモールの娘で、今年2頭目を出産したバレンタインは、
人に対して警戒することはしないが、馬房の中でさえ仔馬が少しでも自分から離れると
うるさいくらいに鼻を鳴らして仔馬のあとを追いかける。


DSC00819.jpg


(ちょこまか歩き回る我が子のあとを心配そうにピッタリと付いていきます。)

DSC00836.jpg


(母馬の関心はいつも仔馬に向けられています。)

DSC00838.jpg


(仔馬が寝ているときは、仔馬のほうに顔を向けて側で守ります。)



母親になった馬達のその様な行動を今まで見てきてるので、
目の前にいる牝馬の我が子に対する様子は心配だった。

また、母乳に関して獣医学書には、
「母乳が足りない場合、仔馬はいつまでも執拗にお乳を飲もうとし、満足することがない。」
と書いてあった。

やっと母馬からお乳を飲むことを許されたこの子は、まさしくその様な状態に見える。
出産前の母馬の乳房が張らないので、薬を与える必要があったこともあり、
母乳の量がたりない可能性が一番の気がかりだった。

母乳は、当然仔馬に栄養を与えるという重要さもあるが
仔馬は誕生してしばらくは水を飲まないので、水分の供給源でもあるからだ。

七転び八起きで目的は達成したかのように見えたが、
懸念する内容が残っている状況にまだ手放しで喜ぶことはできなかった。

いずれにしろ馬房の前に張り付いて観察していても仕方ないので、
しばらくの間、自然の経過に任せようと決め、家に戻って昼食を取ることにする。

母馬と仔馬を産室で一緒にしたのが1時過ぎで、
他の馬達にランチともいえる遅い朝食を与え
一通りの作業が終わったときは3時を回っていた。

数時間後の夕飼い時に、
親子の間で何らかの進展があることを願いながら家まで歩く。
それを確認できなければ、今夜は寝れないだろうと思った。






2012/05/10 7:33:47 | リンク用URL

May

07

2012

春の大奮闘 F、仔馬との和解

2012年3月

ロープで引っ張られることに抵抗した仔馬は、
大きくバッキングを2度繰り返したあとバランスを崩して倒れてしまった。
ピッタリとくっついていた私もその反動で一緒に転んでしまう。

仔馬は自分の出せる限りの力で私に挑んだのだ。
きっと野生の世界だったら、
肉食獣に襲われたときこうやって最後の力を振り絞るのだろうと想像できた。

命の為に戦うことはすごい。
この小さな体から、生きることへの真剣さが痛いほど心に響いてきた。

私は地面に手と膝をついた状態で、目の前に横たわっている仔馬に触ってみた。
地面に平たく伏した馬体は、目を閉じたまま激しく呼吸をしている。
薄べったい胸が大きく上下し、
その速いリズムに合わせて鼻孔が同じように大きくふくらんではしぼむ。

産まれて半日と経っていない仔馬の体は肋骨が目立ち、
小さな体がなおさら弱々しく華奢に見えた。


DSC00328.jpg


(産まれたばかりの子馬は骨張って見えますが、2〜3日するとふっくらしてきます。)



首をさすりながら胸やお腹に手を移動させても全く無抵抗で、
目はずっと閉じたままだった。
息をしている証以外は微動だにしない。

少ししたら足をばたつかせながら起き上がって、
また私から逃げようとすると思い心構えをしていたが、
いつまでも仔馬は目を閉じたまま地面に横たわっている。

その様子は、最後の力を出し切って力尽きたという感じに見えた。
ふと、このまま死んでしまうのかも知れないと思うほど動かなかった。

この世に産まれ出た瞬間から母馬に見捨てられ、人からは乱暴な扱いを受け
なんでこの子はこんな目に遭わなければならないのだろう・・・、
仔馬をさすりながら感慨に浸ってしまう。

通常の作業はまだ手つかずの状態で、やることは沢山あった。
横たわっている仔馬をそのままにしておくことはできず、
とにかく馬房に入れてしまうことが先決だ。

動けないのなら足を縛り暴れないようにして三輪車で運ぶ、という無謀な事も考えたが、
ロープで足を縛ろうとすると、あまりにも蹄が小さいのでするりと抜けてしまう。

大の男ならできるだろうが、私にはこの仔馬を抱き上げて運ぶことはできない。

こうなったら自力で歩かせるしかない・・・、心を鬼にして、
「ほら、もう少し頑張って! 馬房に行ったらフカフカの藁で休めるから・・・。」
そう話しかけ、片手にハーネスを掴み、
もう一方の手で仔馬のお尻をわしづかみにして引っ張り起こす。

仔馬は私に促されながら前足を踏ん張り、
少しもがいたあと首で反動をつけてやっと立ち上がってくれた。

仔馬も体力の限り抵抗したのだろうが、私も限界だった。
肩や腕はだるくて思うように力が入らない。
そんな状態ゆえ自分を叱咤すると同時に、仔馬にも厳しく対応せざる終えなかった。
・・・というより、仔馬の協力がなにより欲しかった。

もう1ラウンド、また同じ事を繰り返すのかと思うと気が遠くなる思いだったが、
その時、この仔馬はまた訳の分からない事をしてくれた。

飛節とお尻の間にかけたロープで引くと、
トコトコと躊躇せずに前に進むのである。

あまりにも簡単に動いてくれるので、私は仔馬の横から正面に移動して、
仔馬と向き合う体勢でバーンに向かって後ろ向きに歩いた。
そのやり方以外、体が思うように動かなかったからだ。

馬を調教するときに使う「飴と鞭」の方法をここで応用しながら、
仔馬が足を前に動かした時に、かけたロープのプレッシャーを解いてあげた。
なるべく穏やかに、そっと仔馬の動きに合わせる。

引いて緩めて、引いて緩めて、・・・
「1、2、・・・1、2、・・・1、2、・・・、良い子だねぇ。 そうそう、その調子。」
さっきのファイターはどこへ行ったのだろう。
馬が変わったように素直についてきてくれる。

その変わりようが驚異で、
ずっとそのままでいてくれることを祈り、私は仔馬に優しく声を掛け続けた。
バーンの入り口にある段差を越えるときは、
「はい、ここでちょっと足を上げてー。 あともう少しだよ。 よしよし・・・、良い子だねぇ。」

直進は良しとして、心配だったバーンの入り口から通路に入る時の角も、
難なく曲がってくれてあっという間に馬房へたどり着いてしまった。

一体この変化は何なのだろう。
さんざん闘って、転んだときに「負けた」と観念したのだろうか。
だから「言うとおりにしよう。」
この人間を「リスペクトしよう。」と思ったのだろうか。

いずれにしろ大きな山場は越えられた。
あとは、もう一度 親子を馬房という環境で繋ぐだけになった。
別の馬房に入っている母馬を仔馬のいる産室に移動する。

母馬はすでに鎮静剤から覚めているので、
仔馬に対してどう出るか心配だった。
もしアタックしそうだったら、すかさず間に入るつもりで見守った。

仔馬はお乳を欲しがり、母馬の後ろ足の方へ行こうとする。
母馬は落ち着きなく歩き回り、仔馬が近づくと耳を背負いながらお尻を仔馬に向けた。
あまり近づくと蹴るぞ、という意思表示だ。

仕方なく私はまた親子馬の仲介に入ることにした。
放牧地でやったように、母馬の前足を持ちながら仔馬に授乳をしてもらう。
この作業はすでに経験ずみだったので大人しくしていてくれた。

時間の経過とともに、母馬の表情が柔らかくなってきたので、
親子馬から離れてしばらく様子を見た。

まだ完全に安心出来る状態ではなかったが、
少なくとも仔馬に危害を加える様子はなくなってきたので、
私は母馬に乾草を与えた。

餌を食べて気分を良くしている内に、
仔馬との絆がガッチリできるようにと願いながら
日常の作業にとりかかることにした。








2012/05/07 5:19:16 | リンク用URL

Apr

23

2012

春の大奮闘 E、子馬との泥仕合

2012年3月

どれくらいの時間が経過したのだろうか、
子馬はいつまでも、
本当に呆れるほどにいつまでもお乳を飲み続けた。

雨雲は抜けていったが、そのなごりで空気は湿っぽく時折小雨が降った。
繁殖牝馬意外は、まだ朝の餌を食べていない。

それにも関わらず、たまに牧場の前を通り過ぎる車の音がするだけで、
周囲は妙に静かだった。
誰も嘶いたり、鼻をならして餌を催促することはなく、
馬房からもガタガタと餌時にたてる音はしなかった。

そんな静寂のせいかは分からないが、
無心にお乳を飲む仔馬の姿を見ている内に心が癒やされ、
自分がいる場所が世間から遠くかけ離れた、
どこか深い別の世界にいるような感覚になった。

IMG_0089.jpg



私はしばらく安らぎの中に浸っていたが、
それを中断させる様な体のきしみで現実に戻された。

子馬がお乳を飲んでいる間、母馬の前足を持ち上げていたため腰や肩が痛くなり、
現実に戻された私は、飼い付けを待っている馬達の事を思い出した。
子馬が満腹になるまで待つことはできない。

通常作業の他に、まだ最後の課題も残っていた。
それは親子馬をどうやって馬小屋へ連れて行くか・・・、だった。

上手くすれば母馬を誘導することで、子馬がついて来る可能性もあったが、
今の段階で足もとをチョロチョロと動く子馬を蹴らないという保証はないので、
まずは母馬だけ先に馬房へ連れて行くことにした。

母馬を引き離したら、
仔馬はキョトンとその場に立っているだけで後を追うことはなかった。
まだ一回の授乳では親子の絆は出来ていないようだ。

母馬を馬房に入れ、
子馬を連れて戻って来たときのために、
広いお産用の馬房は戸を全開にした。

ここに来てくれる装蹄師さんとは、馬の馴致や調教の話をすることがある。
彼は昔努めていたサラブレッド牧場の話をするのが好きで、
そこの仕事の内容をよく聞かせてくれた。

ある時、まだムクチで誘導のできない子馬を
ロープで動かす方法を説明してくれたことがあった。

もっとしっかりとその話を聞いておけば良かったと後悔しながら
放牧地に残した仔馬が心配でバーンの中をせっかちに歩き回り
ようやく綿でできている柔らかいロープ2本を見つけた。
そして、それらを結びながら足早に仔馬のいる放牧地へ向かった。

意外にも仔馬はまだ同じ場所に立っている。
やれやれ・・・、とホッとしながら不用意に近づいたのが良くなかった。
先ほどのことはすっかり忘れてしまったのか、仔馬は私から逃げようとしたのだ。

そして、それを捕まえようと腕を伸ばした瞬間、
仔馬は3本の柱を固定するため横に打ち付けてある板の下をくぐり抜けようとした。

最後までしゃがんでくぐれば何事もなかったのに、
板の下を仔馬の背中が通過するとき、
足を伸ばしたものだから地面と板の間に挟まれて動けなくなってしまった。

きっと馬は肉食獣が身を伏せながら獲物に近寄るような
ほふく前進はできないのだ、とこの時思った。

可哀想な仔馬はにっちもさっちも行かなくなり、
妙なかっこうで少なくとも10秒間位は踏ん張っていたと思う。

私もどうしたものか、どう助ければいいのかとワタワタしている内に、
仔馬はやっと、ほとんど力ずくといった感じで抜けることができた。

この板挟み状態がショックだったのだろうか・・・
放牧地の外に出た仔馬はじっと動かずにいた。
なにが起こったのかわからず、ボーッとしているようにも見えた。

私は静かに仔馬の側に行くとロープの端を首に回した。
それだけでは暴れたときに簡単に外れてしまうので、
ロープの余った部分を胸の回りにもかけるようにし、
犬が着けるハーネスのような形に結んでみた。

そして左手に即席のハーネスをつかみ、
右手で仔馬のお尻を押して最初にやったように誘導しようとした。
だが、あの時は上手くいったのに今回は難儀だった。
仔馬が足を突っ張って歩こうとしない。

お尻を押すだけでは動かないので、
両腕で仔馬を抱えては持ち上げ一歩ずつ前に進んだ。
だが、このやり方は大して進まないうちに、
腕、肩、腰が悲鳴を上げる。

非協力的な相手に両腕だけでは限界なので
今度は足も使うことにした。
仔馬の胴体の下に右膝を入れ、
腕の動きに合わせて足で仔馬を押し上げながら前へ出す。

ちらっと、数時間前に母馬から切り離された
まだ乾いてないへその緒のことが頭をかすめ
そこを痛めるのではないかと思ったがあえて考えないことにした。

仔馬は相変わらず、そして増々かたくなに足を突っ張る。
持ち上げられる度に前足でバタバタと空を蹴るため
私の向こうずねは何回もパンチを喰らった。

わずか数メーター進むのに永遠の時間を感じ、
体力も、そして抵抗し続ける仔馬に対して精神の均衡を保つのも限界だと思った。

いつもなら優しく接している仔馬に、
私は闘争心すら湧いてくるようであった。
どこからか激しい感情がこみ上げてきた。

息を切らしながら何か他に方法はないかと立ち止まり、
今度はあまったロープの部分を仔馬のお尻と飛節
の間に回し引っ張ってみようと思った。
   注:飛節=人間では踵にあたる部分で、馬にとってはお尻のすぐ下の大きな関節

仔馬もさんざん抵抗したため
鼻の穴が大きくふくらんでは閉じ、それを激しく繰り返している。

お互いにフラフラの状態だった。

少し息が戻った私は、仔馬が逃げないようにハーネスを握りしめ、
そこから伸びた長いロープを仔馬のお尻の下に回した。
両手でハーネスとそのロープを掴み
自分の体重を思いっきりかけながら前方へ引っ張ってみる。

これにはさすがに抵抗できず、2歩、3歩と歩き出した時である、
突然、仔馬は満身の力を込めてバッキングした。
頭をさげ、背中を丸め4本の足が宙に浮くほど
激しく尻っぱねをした。

まるでロデオの暴れ馬がするような勢いで、
数時間前に産まれた仔馬の
どこにそんな力があったのかと思わせるほどの迫力だった。

それを逃がすまいとロープにしがみついた私は、
仔馬が2度目のバッキングのあとにバランスを崩して倒れるのと一緒に転んでしまい、
地面についた手足が、ジーンズと手袋を通して雨水で濡れていくのを感じた。

これは、まさに泥仕合となってしまった。

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2012/04/23 4:24:44 | リンク用URL

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