アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ

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2012

春の大奮闘 F、仔馬との和解

2012年3月

ロープで引っ張られることに抵抗した仔馬は、
大きくバッキングを2度繰り返したあとバランスを崩して倒れてしまった。
ピッタリとくっついていた私もその反動で一緒に転んでしまう。

仔馬は自分の出せる限りの力で私に挑んだのだ。
きっと野生の世界だったら、
肉食獣に襲われたときこうやって最後の力を振り絞るのだろうと想像できた。

命の為に戦うことはすごい。
この小さな体から、生きることへの真剣さが痛いほど心に響いてきた。

私は地面に手と膝をついた状態で、目の前に横たわっている仔馬に触ってみた。
地面に平たく伏した馬体は、目を閉じたまま激しく呼吸をしている。
薄べったい胸が大きく上下し、
その速いリズムに合わせて鼻孔が同じように大きくふくらんではしぼむ。

産まれて半日と経っていない仔馬の体は肋骨が目立ち、
小さな体がなおさら弱々しく華奢に見えた。


DSC00328.jpg


(産まれたばかりの子馬は骨張って見えますが、2〜3日するとふっくらしてきます。)



首をさすりながら胸やお腹に手を移動させても全く無抵抗で、
目はずっと閉じたままだった。
息をしている証以外は微動だにしない。

少ししたら足をばたつかせながら起き上がって、
また私から逃げようとすると思い心構えをしていたが、
いつまでも仔馬は目を閉じたまま地面に横たわっている。

その様子は、最後の力を出し切って力尽きたという感じに見えた。
ふと、このまま死んでしまうのかも知れないと思うほど動かなかった。

この世に産まれ出た瞬間から母馬に見捨てられ、人からは乱暴な扱いを受け
なんでこの子はこんな目に遭わなければならないのだろう・・・、
仔馬をさすりながら感慨に浸ってしまう。

通常の作業はまだ手つかずの状態で、やることは沢山あった。
横たわっている仔馬をそのままにしておくことはできず、
とにかく馬房に入れてしまうことが先決だ。

動けないのなら足を縛り暴れないようにして三輪車で運ぶ、という無謀な事も考えたが、
ロープで足を縛ろうとすると、あまりにも蹄が小さいのでするりと抜けてしまう。

大の男ならできるだろうが、私にはこの仔馬を抱き上げて運ぶことはできない。

こうなったら自力で歩かせるしかない・・・、心を鬼にして、
「ほら、もう少し頑張って! 馬房に行ったらフカフカの藁で休めるから・・・。」
そう話しかけ、片手にハーネスを掴み、
もう一方の手で仔馬のお尻をわしづかみにして引っ張り起こす。

仔馬は私に促されながら前足を踏ん張り、
少しもがいたあと首で反動をつけてやっと立ち上がってくれた。

仔馬も体力の限り抵抗したのだろうが、私も限界だった。
肩や腕はだるくて思うように力が入らない。
そんな状態ゆえ自分を叱咤すると同時に、仔馬にも厳しく対応せざる終えなかった。
・・・というより、仔馬の協力がなにより欲しかった。

もう1ラウンド、また同じ事を繰り返すのかと思うと気が遠くなる思いだったが、
その時、この仔馬はまた訳の分からない事をしてくれた。

飛節とお尻の間にかけたロープで引くと、
トコトコと躊躇せずに前に進むのである。

あまりにも簡単に動いてくれるので、私は仔馬の横から正面に移動して、
仔馬と向き合う体勢でバーンに向かって後ろ向きに歩いた。
そのやり方以外、体が思うように動かなかったからだ。

馬を調教するときに使う「飴と鞭」の方法をここで応用しながら、
仔馬が足を前に動かした時に、かけたロープのプレッシャーを解いてあげた。
なるべく穏やかに、そっと仔馬の動きに合わせる。

引いて緩めて、引いて緩めて、・・・
「1、2、・・・1、2、・・・1、2、・・・、良い子だねぇ。 そうそう、その調子。」
さっきのファイターはどこへ行ったのだろう。
馬が変わったように素直についてきてくれる。

その変わりようが驚異で、
ずっとそのままでいてくれることを祈り、私は仔馬に優しく声を掛け続けた。
バーンの入り口にある段差を越えるときは、
「はい、ここでちょっと足を上げてー。 あともう少しだよ。 よしよし・・・、良い子だねぇ。」

直進は良しとして、心配だったバーンの入り口から通路に入る時の角も、
難なく曲がってくれてあっという間に馬房へたどり着いてしまった。

一体この変化は何なのだろう。
さんざん闘って、転んだときに「負けた」と観念したのだろうか。
だから「言うとおりにしよう。」
この人間を「リスペクトしよう。」と思ったのだろうか。

いずれにしろ大きな山場は越えられた。
あとは、もう一度 親子を馬房という環境で繋ぐだけになった。
別の馬房に入っている母馬を仔馬のいる産室に移動する。

母馬はすでに鎮静剤から覚めているので、
仔馬に対してどう出るか心配だった。
もしアタックしそうだったら、すかさず間に入るつもりで見守った。

仔馬はお乳を欲しがり、母馬の後ろ足の方へ行こうとする。
母馬は落ち着きなく歩き回り、仔馬が近づくと耳を背負いながらお尻を仔馬に向けた。
あまり近づくと蹴るぞ、という意思表示だ。

仕方なく私はまた親子馬の仲介に入ることにした。
放牧地でやったように、母馬の前足を持ちながら仔馬に授乳をしてもらう。
この作業はすでに経験ずみだったので大人しくしていてくれた。

時間の経過とともに、母馬の表情が柔らかくなってきたので、
親子馬から離れてしばらく様子を見た。

まだ完全に安心出来る状態ではなかったが、
少なくとも仔馬に危害を加える様子はなくなってきたので、
私は母馬に乾草を与えた。

餌を食べて気分を良くしている内に、
仔馬との絆がガッチリできるようにと願いながら
日常の作業にとりかかることにした。








2012/05/07 5:19:16 | リンク用URL

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