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Jun
03
2012
さて、ファイブスピンをしてしまうのが弱点だという美紀ちゃんに対して、
それを防ぐべく、競技会出場に向けてどのようなレッスンをしたかの続きです。
もし長らく待って頂いた方がいましたら、
のんびりしてしまい大変申し訳ありませんでした。
美紀ちゃんには、競技会出場するための相棒カサノバ号に馴染んでもらうため、
到着した翌日から貸し切りにしました。
選手が渡米してくるまでの1ヶ月間で調整はほとんど済んでいたので、
私がこの馬に乗る役目は終わっていました。
美紀ちゃんはあるとき、
「みどりさんはカサノバには乗らないのですね。」
と不思議そうに聞いてきたことがあります。
これは私の主義ですが、レッスンをするときは
馬を手渡した時点で私の課せられた次の仕事は、
いかに乗り手が馬とコミュニケーションを図るべくかアドバイスすることだと思っています。
簡単に言えば、異国語を話す人の間に入って通訳する様な役割です。
本番で競技馬場に入ったら、
パターンの開始から終了まで騎乗者は1人で馬に対応していかなければなりません。
もしかしたら思いがけないこともあるかも知れません。
それに対処するのは、乗り手自身なのです。
だから、自分から馬を分かろうとする姿勢を作る、
また試行錯誤して積極的に自分でその馬と折り合いをつけていく、
という感覚を持ってもらう意味でも、
よほどの事がない限り私が乗り替わって問題を解決するようなことはしない、
というのがグリーンウエイランチのレッスンの仕方です。
(あるレッスンの模様、自分も馬にまたがりスピンについて説明しています。
まずは言葉で・・・)
(次にスピンの前運動の見本を示しています。)
ちなみに美紀ちゃんがカサノバを専用馬とした約1ヶ月の間に
2回だけ乗り替わったことがありましたが、
1回はどのようにカサノバに乗ってきたかを見せるためと、
2回目は競技会最終日にスピンの調整が必要だったためです。
美紀ちゃんは、レッスンの飲み込みが早く、馬に対してのセンス、度胸など申し分なかったので
説明した動きを馬にすぐ反映させられたというのも乗り替わらずに済んだ理由です。
いくらこれが主義だとしても、
馬の状態が崩れていくような時はもちろん乗り替わります。
実はこの方法は「言うは易く行うは難し」で、とても神経を使うことです。
特に競技会に向けて練習をしているときは、
大会当日に馬をベストの状態に持っていかなければならないため
細心の注意が必要となります。
レイニングホースは飴と鞭(プレッシャーとリリース)を使い分けて調教していきます。
乗り手の指示に対して馬の反応が乗り手の望むものなのか否かを
その動作を何回もくり返しながら飴と鞭で馬に覚えてもらいます。
(この「鞭」とは懲戒という意味ではありません。)
それゆえに仕上がったレイニングホースは精巧な機械の様な感じになるのです。
音声にも確実に反応するようになり、その例としては、
舌鼓だけである動作(駈歩やスピンなど)のスピードをあげてくれる、
または常歩や速歩から駈歩への移行をする。
その他に、「ウォー」というかけ声で停止するといった具合です。
乗り手の音声を馬が理解すると、
鞍数の少ない騎乗者が乗っても面白いほど馬の操作は楽になります。
もし、このような馬の状態が崩れるような場合は、
コンピューターの操作で例えるなら「上書き保存」をした時です。
なぜレイニングホースの調教が壊れていくかは様々な理由を挙げることができますが、
簡単な1つの例で説明すると、
ある時の馬の動きの後にそれが好ましくなくても飴を与えてしまった場合があります。
「飴」を与えるとは、馬を「休める、あるいはかけていたプレッシャーを取る」と言うことです。
この状態を続けていくと、人間でいえば 「まぁ、これでもいいか・・・」
と馬は適当に動くようになります。
そしてその回数が多ければ多いほど、
レイニングホースの動きは正確さを欠き、錆び付いてくるわけです。
私はそれを避けるためにレッスン時は、乗り手より馬を重視して見るようにしています。
そして、馬の動きからその時に乗り手がするべき事を指示するようにします。
次回はスピンの指導をするにあたり、
美紀ちゃんがいかに馬の状態をキープしながらファイブスピン防止の練習したか
を書いてみたいと思います。
(美紀ちゃんとカサノバ号)
2012/06/03 7:27:22 | リンク用URL
May
22
2012
2012年4月
母乳の量を仔馬のオシッコから推測できると判断した私は、
翌日から産室の掃除をゆっくりと注意しながらすることにした。
その日から三日間で人工哺乳に切り替えるか否かを判断しようと思った。
特別な根拠はない・・・ただ、どこかに道しるべを作ることで気を休めたかった。
それまでに脱水症状が見られず仔馬が元気でありますように、と願う。
産室にはオガではなく、藁が敷いてある。
それをフォークでかき分けながら、大量のオシッコの跡は母馬のもので、
少ないのが仔馬のものだと決めることにした。
藁の下はゴムマットなので、オシッコの跡は確認しやすい。
その他にも拠り所になるものが必要なので、
仔馬の皮膚の状態で脱水症状の有無も調べる。
仔馬の胸前の皮膚をつまんで引っ張り、
皮膚に弾力性があって、すぐもとに戻るようであれば脱水症状の危険性はないと思ってよい。
母乳が水分の補給源でもある新生児を調べるにはこの方法は頼りになるはずだ。
また今までの経験で、誕生した仔馬が2〜3日たつと、
体つきがふっくらしてくるので
見た目の印象も母乳の量の判断材料になる。
それとやはりオシッコをしている所を目撃するのが一番の安心だった。
この仔馬は私が心配しているのを分かっているかどうかは別として、
2日目も馬房の前を通り過ぎる時にタイミング良く、
「ジャー!!」とオシッコをしてくれた。
いつも不思議に思うが、馬の様子を常日頃観察する習慣がつくと、
ひょんな時に、馬たちは色々な形でなんらかのメッセージを送ってくれる。
そして、何か疑問に思ったことなど答を知る手助けをしてくれる。
普段の馬房掃除でも、ボロとオシッコの量、
それからボロに関しては形状も意識して見てるといつもと違う時がある。
ボロが柔らかい時などは、
馬が普通にしていても体調が万全でないのが想像できるので、
そういう時は、トレーニングを休むか軽く終わらせるようにする。
よく 「快眠、快便、快食」を人間の健康の判断基準にするが馬も同じ事だ。
さて、予想もつかない展開になってしまった今春(2012年)の馬の出産だが、
あの台風のような一時に起こった、
母馬の育児放棄、雨天での仔馬とのバトル、親子馬の絆を作る作業、
母乳の量についての懸念、
それらの全ては数日の内に嘘のように収まってくれた。
母馬は仔馬と馬小屋で1日一緒に過ごした後、母性を取り戻したのか
翌日には仔馬に向かって「フルルルル〜」と優しく鼻を鳴らして話しかけ、
すっかりお母さんの表情をするようになった。
(仔馬放棄の翌日、授乳中に母馬がしていた仕草はお母さんそのものになりました。
2012年4月1日撮影)
(母馬の仔馬を見る表情がとても優しいです。 2012年4月1日撮影)
そして、仔馬も本来あるべき行動をとるようになった。
必死で助けようと頑張ったのでちょっとガッカリだったが、
健康チェックをするため産室に入ると,仔馬は母馬の陰に隠れようとした。
母乳の量も問題なさそうで、しばらく注意して発育状態を見守ったが、
いつも元気で活発に動き回り、1週間の産室生活から放牧地に移動した時は
「危ない!」 と思うほど全速力で母馬の回りを何周も走るほどの成長ぶりだった。
(順調に発育してる仔馬は食いしん坊で、つまみ食いをしています。 2012年5月撮影)
3月31日、凝縮された時間に起こったとんでもないハプニングで、
次々に判断と行動が要求され、それも未知の状況を1人で対処した経験は、
馬から私へのギフトだったような気がする。
もし、この日自分一人だけでなく他に人がいれば心強かったかもしれない。
意見を交わしながら対策を考え、それに伴う作業が一緒にできただろうし、
ピンと神経の糸を張らずに、気分的に余裕も持てたはずだ。
だけど、そのような状況だったら
母馬の後産の匂いに反応する仔馬に気が付いただろうか・・・。
そして、生まれたての仔馬が刷り込みによって何かを覚える、
そんな瞬間も気付けただろうか・・・。
馬を仕事にしている人間にとって、
彼らを理解するチャンスが与えられることほど素晴らしいものはないと思う。
今、放牧地で寄り添う親子を見て、ふとあの日の出来事を思い出す時がある。
一度は離れそうになった親子が、完璧な絆で結ばれている光景を目にする度に、
ポッと心が温かくなるのを一人で味わうのも良いものだ。
2012/05/22 7:47:53 | リンク用URL
May
15
2012
2012年3月
いつもの事ながら、馬小屋から家まで歩くときは色々と思いを巡らす。
作業の段取り、問題がある場合は解決策、馬に乗った時は反省点など。
馬や牧場のことは、何をしていても頭から離れたことがなく、
寝ているときでも考えていたりするので、たまにその癖から離脱して
全てを忘れてしまいたいと思うこともある。
そして、今朝の育児放棄事件に関して頭の中を忙しく駆け回っているのは
「疑問と心配」だった。
母馬の母乳が足りない場合、どう対応していったら良いのだろう・・・。
仔馬を人工哺乳する必要性が出たら、
これから先しばらくは日常の作業内容がガラッと変化することになる。
今の状態で手一杯なのに、果たして仔馬の面倒を見ることができるのだろうか・・・。
もし、仔馬がめでたく母馬から授乳を許されたとしても、
母乳がたりない場合それをどうやって知ることができるのだろう。
発育状態が芳しくない、ということで判断するのであれば
対応は手遅れになるような気がする。
弱ってしまった仔馬をもとに戻すのは大変なことだし、
へたすれば生かすことさえ難しくなる。
獣医書に書いてあった、母乳が足りない場合の仔馬の様子(執拗に乳を飲み続ける)
を観察できたとしても、果たしてそれだけで判断できるのであろうか。
母乳の量が足りないとしても、
仔馬が乳を吸っているうちにもっと出てくる可能性もあるのではないか。
人工哺乳を選ぶならば、苦労して繋いだ母子を再び離さなくてはならない。
育児放棄をした母馬相手に逆戻りはまず難しいので、
この件に関しては慎重に行動する必要があると思った。
これからの対応を決めるのは馬の様子から受ける自分の勘を頼るしかなさそうだ。
また、勉強させられる出来事が起こってしまったわけで、
天はこれでもか、というほど次から次へと課題を与えてくれる。
家に戻ってドアを締めると、外で作業しているときは分からなかったが、
雨に濡れて子馬の毛や泥が付いた衣類が臭っているのに気がついた。
悪臭というわけではなかったが、
仔馬の体から移った羊水の臭いが染み着いていてとてもそのままではいられず、
身ぐるみ着替えることにした。
汚れたジーンズを脱いだとき、
足のすねに無数の青たん、赤たんの花が咲いていた。
長靴を履いていたにもかかわらず、その上から仔馬にキックされた時に受けた打ち身だ。
産まれて時間の経ってない仔馬の蹄は、
お産中に母胎を傷つけないようにまだ柔らかい。
沢山のアザは痛くはなかったけれど、馬の持つ力を克明に印していた。
暖かいお茶と軽食で少し元気を取り戻した私は、
バトルが終わった戦地を訪れるような気持ちでバーンに引き返す。
予想のつかない光景を見る不安や恐怖のようなものがあり、
気になるのは子馬の安否だった。
建物の通路をドキドキしながら歩き、そっと産室を覗いてみたら
母馬はまだ乾草をポリポリ食べていた。
そして、仔馬はせっせと乳を飲んでいる。
(良かった・・・、何事もなく無事だ。)
それでも先ほど浮かんだ疑問は解決していない。
(母乳は足りているのだろうか・・・)
答を知る方法はないものか、と自分に問いながら
通路をはさんで産室の向かいに積んである乾草の山のてっぺんに腰かける。
食事をして気持ちが落ち着いた私は、そこで夕方の飼い付けまで親子の様子を見ることにした。
母親は相変わらずで、餌にしか興味がないようだ。
(この子はお乳はもらえても、愛情はもらえないまま育つのかな・・・)
と仔馬を不憫に思う。
無心にお乳を飲んでいる姿を哀れに思いながら見ていたら、
しばらくして仔馬は母親から離れた。
ちょこちょこと馬房の中央まで歩き、立ち止まったかと思ったら尻尾を上げ、
後ろ足を広げながら腰を落とす。
そして、 「ジャー!!」 と勢いよくオシッコをした。
(別の仔馬ですが、こんな感じでオシッコをします。)
仔馬のオシッコをする様子を見ながら私は大笑いをしてしまった。
そして、元気な音と共にモヤモヤとしていた気持ちが一気に晴れた。
(なぁーんだ、オシッコの量は母乳の量のヒントになるじゃない。)
真剣に悩んでいた自分が可笑しく思えた。
(よしよし、しっかり観察していけば大丈夫だ。 よかった、よかった!)
本当に、小さな手がかりだけれど心底ホッとした。
2012/05/15 10:24:51 | リンク用URL
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