![アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ](../img/head.gif)
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2014
落馬した夜は、ひびの入った肋骨が痛んだものの、
翌日は大したことなく、気を良くしていつも通りに作業を進めていった。
今、数ある作業の中で一番中心になっているのが、
2頭いる若馬のトレーニングだ。
ある程度まで乗り込めば一息つけるが、
まだ40鞍そこそこなので間を開けると、また振り出しに戻ってしまう。
落馬をもたらした馬(ダイヤモンド)はその中の1頭で、
落馬直後には乗り直しをして、まずまずの状態にはなったが、
続けて乗れば更に固まるだろうと思い、その日の予定に入れた。
もう1頭の若馬、ライダーは馴致の段階でもかなり手を焼き、
順調にトレーニングが進んでいるダイヤモンドに比べると時間がかかっていた。
この馬も休めるわけにはいかないので、最初に乗ることにした。
ライダーを洗い場に繋ぎ、鞍を乗せる前に裏堀りをするため、
腰を曲げた姿勢で、右の手のひらにライダーの前足の蹄を持った。
そのとき、馬は足を自分に引き寄せ、私から逃れようとした。
反射的に馬の足を逃がすまいと力が入り、
その動きに腕を引っ張られた瞬間、
再びあばらにビリッという衝撃を感じた。
息が詰まるような痛みで、
重い鞍を馬の背に乗せるのは無理だと思い、
この日の騎乗は断念した。
自分を無理に押したために、再び傷を悪化させ、
またバカをやってると思ったら力が抜けた。
そして、乗り運動は痛みが引くまで待とう、
と決心したら気持ちが楽になった。
まだまだ修行が必要なようで、
痛い目に合わないと学習できない。
私は、一揆に事を進める傾向があり、
気持ちにゆとりを持つことができないのだ。
自分で言うのも変だが、目的達成意欲は旺盛なほうだと思う。
計画したことは頑なに実行し、
完結させるという意味では成果を上げている。
小さなことでも決めたことを終わらすと、
「やった感」 が体を満たし、
その感覚が好きだからだ。
そんな性分は、
結果を出すことに夢中になりすぎて、
目的地だけを見続けるため性急にもなる。
その行程に注意を払わないので、
目的地へ進む間に見える大事なことや、
そこから学べる宝の山に気が付かないことになる。
そんな人間だが、ありがたいことに私は、
動物や自然から教えられることが沢山ある。
興味を持ち、アンテナを張っている方向がそっちなので、
当然といえば当然で、特に身近にいる馬たちからは、
数々の気付きを与えられてきている。
今回の出来事も馬たちが、
まだ変わる必要がある自分に駄目押しのような感じで、
その機会を与えてくれたのだろう。
まだ落馬の余韻が残っている4日後に、
装蹄師のダレルが来た。
あばらにひびが入ったことを伝えたら、
彼は、馬の蹄を削りながら自分の体験談を話し始めた。
ダレルは装蹄中に馬に蹴られて、あばらを2本折ったことがあるそうだ。
かがんで後ろ足の蹄を削っている最中に、
回し蹴りをもろに胸に受けて、飛ばされるほどだったという。
まだ若くて、貯金もなく健康保険にも入ってなかったので、
骨折から2週間後には仕事に復帰したという。
復帰直後は、装蹄をするときに痛みを軽減するため、
どう自分が工夫をしたか、ということを身振り手振りで話してくれた。
辛い経験のはずなのに、思い出を語る彼はなぜか楽しそうだった。
そして、帰り際に重量のあるウエスタン鞍を楽に馬の背に乗せる方法と、
餌の入った20キロ以上ある袋を、
体に負担をかけないように持ち上げるコツも、
わざわざ実践しながら教えてくれた。
その2日後にジミーおじさんが訪れた。
乾草を届けに来てくれ、また怪我の体験談となった。
ジミーおじさんは重機を操縦していたとき、
それが大きくバウンドした際、
固いシートに座っていたため尾てい骨にひびが入ったこと。
それと、農機具を修理中にバランスを崩して前に転んだため、
鎖骨を機械にぶつけて骨折した経験を話してくれた。
ジミーおじさんが帰り際に、力を必要とする作業を手伝ってくれたので、
一緒に作業しながら、骨折のあとは仕事を休んだのか聞いたら、
「1年365日、ずっと休んだことはないよ。」
と言った。
ダレルやジミーおじさんは仕事柄
怪我をしても休むことができない環境や、
それに伴う苦労を知っている。
この2人には、私がいつも感心する共通点がある。
それは、人に頼らず自分でなんでもする、
そして人任せにできないところだ。
2人とも、職人気質で仕事に対する考え方や、
自分のやり方にこだわりを持っている。
でも、そのこだわりは決して固執しているものではなく、
状況とバランスを取りながらのもので、
そこに無理がない。
ダレルはグリーンウェイランチに装蹄に来てもらうようになって8年になるが、
ベテランの装蹄師が助手を伴うのに比べると、
ほとんど1人で仕事をすることが多い。
40年近い装蹄経験と、確かな腕を持ち、
彼のもとに装蹄を勉強しに来る人も多いようだが、
見込みがないとすぐ断ってしまう。
ジミーおじさんもダレルとよく似た感覚を持ち合わせている。
広大な面積の農地を相手にするので、
普通なら人を雇わなくてはならない規模の仕事をしているが、
コツコツと朝から晩まで1人で働いている。
大変そうなので、「誰か雇わないの」 と聞いたら、
「一人の方がやりやすい」 と言っていたことがあった。
彼らは、何十年という年月に渡って自分が決めた道を、
自分のやり方で誇り高く歩いて来ている。
その道を迷うことなく地道に歩き続け、
山や谷を越えながら今いるところがある。
きっと苦労をすることの方が多いはずなのに、
苦労話をするときは、
どこか子供っぽいキラキラとした輝きが瞳の奥にあった。
良い仕事をしても人から褒められるでもない、
大変な労働と忍耐、技術と工夫が必要な仕事に
この2人は、心から愛情を注いでいるんだな、と感じた。
そんなジミーおじさんとダレルのけして若くはない、
でもスッと筋の通った後姿と、
その体の中にある確固たる信念を見たとき、
私の心の琴線になにか触れるものがあった。
それは、動物や自然からだけでなく、
初めて私が人から「なにか」を感じた瞬間だった。
2014/11/14 9:07:58 | リンク用URL
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