アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ

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2011

ゴン太のはなしL 静かな旅立ち

その日は、空気が肌に気持ち良く感じるさわやかな朝だった。
馬に飼いを与えるために自宅を出て、
放牧地の馬たちに異常がないか確認しながらバーンの方へ歩いていった。

バーンに近づくまでは、またいつもの1日が始まろうとしているように思えた。
馬小屋の延長には雨天でも馬を放牧したり、軽い運動ができる覆い馬場が隣接されている。

その建物の角に寄り添うように、ゴン太の白い毛が見えてきた。
(あんな所で寝ているんだ・・・) と思った。

DSC00966.jpg



また何歩か馬小屋に近づいたとき、
見ている景色になにか違和感を感じ、心がギュと緊張した。
そして、心臓がドキドキと鳴りだす。
こんなに近くまで来ているのに、ゴン太は微動だにしない・・・。

さらにゴン太の方へ歩を進めながら、
一瞬、本能的に (死んでいる・・・)と思った。
(でも、まさか・・・そんなはずない・・・)

訳の分からない恐怖感が私を襲い、ゴン太に駆け寄りたい衝動と
そこから逃げ出したい衝動が交差した。

二つの気持ちが葛藤するのを感じながら、足早にゴン太のそばへ近づき声をかけてみる。
「ゴン太・・・・・」、 名前を呼んだ声がかすれていた。

恐怖感がさらに強くなったが、
逃げたい気持ちを殺して横になっているゴン太に手を伸ばしてみた。
死んでいると直感的に分かっているのに、
触って更にそれを現実として受け止めるのが怖かった。

ゴン太から手に伝わってくるものは、
いつもの柔らかくて暖かい感触とはまったく異質のものだった。
冷たく、そして固かった。

明らかに死んでいるという、
その現実が手を通して、目を通して嫌と言うほど伝わってくるのに、
(そんなはずはない・・・、)と心が受け止めない。

私はほとんど何も考えずに、反射的にゴン太から離れた。
人の気配に気づいて餌をねだる馬たちが騒ぎだし、日常の現実に引き戻された。
今見たことは考えずに、手早く馬たちに餌をやる。

悪天候だろうが、体の具合が悪かろうがこれは毎日やらなくてはならない作業なのだ。
それが終わるまでは・・・と思う。

頭の中は真っ白な状態で動悸がした。
それを無視しながら、体に染みついた動作をなにも考えずに行う。
指がぎこちなく震えて、飼料を馬房に入れるとき何回も壁にぶつけてしまった。
思考は抑制できても、身体は正直だった。

いつの頃からだろう、思い出すと本当に小さい頃からだと思うが、
私は感情にかられて泣くという性格が欠けているのに気がついたことがあった。
人前で怒ることはあっても、悲しむという感情をあらわにしたのは
今までに数えるほどしかない。

そのあたりは妙に自分をコントロールすることができて、
その日も起きている現実をどこかにしまい込み、
今やるべき事の妨げになるような感情は感じないでいた。
一通りの作業が終わるまでは・・・。

馬房の馬を放牧して一段落したとき、あらためて
(ゴン太が死んでしまった・・・)という感覚が、からだじゅうに広がった。
ググッと胃が縮むのを感じ酸っぱいものがのど元に上がった。
急に体から力が抜けると同時に目眩がして、そばに立っている洗い場の柱をつかんだ。

(ゴン太のところへ行かなくては・・・)
自分を奮い立たせてバーンの外へ出る。

目に入ってくる光景は、なにも変わっていなかった。 
ゴン太がそこにいて、まだ横たわったままだった。
やはりこれは現実なのだ・・・、夢であって欲しかった。

しゃがんでゴン太を両手で抱き、顔を自分のほうへ向けてみた。

空耳だったのかもしれない。
でも、死んでいるはずのゴン太からいつもの喉をならす音が確かに聞こえた。
「グルル〜、グルル〜、グルル〜、・・・」
と耳に心地の良いリズムをともなって・・・。

目がうっすらと開いていた。
乾いた感じがしていたが、遠くを見ているような眼差しだった。

口は静かに閉じていて、何か吐いた後や、血液もついていない。
身体をつぶさに調べたが、外傷はなかった。

(まさか・・・、)犬に襲われたかもしれないと思う。
もしそうであれば犬の唾液がついていて、毛並みの乱れがあるはずだ。
だが、そのような様子もなかった。

昨日の日中は遊んでいる姿を見ている。
その夜に与えた餌は全部平らげていたので、
少なくともそれまでは元気だった様子が伺える。

まだ、2歳にも満たない。
なにが原因だったのだろう。
ゴン太は、本当に綺麗で静かに眠っているようだった。

納得できない。
どうして死んだのだろう。
一瞬、解剖をしてもらおうかとも思った。
以前、死産で産まれた仔馬の原因を調べるために
その仔馬を運んだクリニックが頭に浮かんだ。

ただ、理由を知ったとしてもゴン太は戻ってこない・・・、
何も現実を変えることはできないのだ。

ゴン太をバーンに置いてあった清潔なタオルでくるみ中へ抱いていった。
そこまではなんとか行動したが、その後どうしてよいのか分からなくなった。
頭が疲れて、思考がストップする。

少し腰かけて気を取り直した後、
私は携帯電話を腰からはずして、ラリーにすむ友人に電話をした。
ゴン太とハナを慣らすときにケージを貸してくれた人だ。
ネコ好きで牧場を訪れる度に、ゴン太を可愛がってくれた。

何回かの呼び出し音のあとに、幸いにも友人は電話にでてくれた。
仕事で留守電になっているかもしれないと思ったのでホッとした。

「もしもしぃー」
いつもの明るい声がする。

「ごめんね、今忙しい?・・・今日は仕事なの?」
私は平静をよそおった。

「うーん、午後から。 どうしたの?」

「ゴン太が・・・」
それだけ言って、先を続けることができなかった。

「・・・えぇ〜!なになに・・・、ゴン太がどうしたの・・・!?」
様子が変なのを感じた友人が矢継ぎ早に言葉を続ける。

喉が締まって痛くなるのを感じながら、やっとの思いで
「・・・ゴン太が死んでしまった・・・」
と伝えた。


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2011/10/23 20:30:44 | リンク用URL

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