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2016
馬と関わるようになって長い年月が経ちましたが、
自分で実際に仔馬の繁殖と育成を手掛けるまで、
馬が持つ本来の性質を完全には理解できていなかったことに
改めて気づかされました。
いかなることもそうですが、深いところで物事を理解するには、
その対象の始まりから終わりまでを身近で観察し、
様々な角度から自分の肌を通して感じる時間と、
経験の数が必要なのではないかと思います。
馬の誕生から競技馬になるまでの長いスパンで、
彼らが成長していく様子を日常の出来事として体験しながら
そこから感じたことをブログで綴っていければと思います。
今回は、仔馬たちを見ながら気付いたことをブログにします。
仔馬は、人間と多くの場面を共有してきた大人の馬とは違い、
人のことは何も知らない、本来の馬の姿です。
馬という動物がどのような性質や習性を持っているのかを知るには、
よいモデルとなってくれます。
自然界では、本能が強い母馬は群れから離れたところで出産し、
仔馬がしっかりした足取りで行動できるようになるまで、
数日間は群れの中に入りません。
母性の強い母馬は、誕生間もない仔馬を守るべく行動しますが、
被食動物である馬にとって安全、危険をいち早く学ぶことは、
生と死を分けるサバイバルに繋がります。
そのため産み落とされて1日もしないうちに
仔馬は本能的に母馬に寄り添って行動するようになります。
そして、仔馬が母親以外の生き物を知るときは、
母馬を通して、それが安全なものかどうかを知り、
安全とわかると近づいて自分自身も接触を試みます。
そのようにして、仔馬は周囲を認識していくようです。
この段階で仔馬が持つ人という動物の印象は、
最初の遭遇の記憶が強く残るので気を付けなくてはならないと思います。
日常で仔馬たちの成長する様子を見ていくうちに、
馬と接するときに、とても大切なことが分かってきたような気がします。
その内容は、馬から好かれるにはとても重要な基本で
言葉にすれば意外と簡単な二つのことです。
一つ目は、馬と接するときにまず気を付けることして、
「馬に怖い思いをさせない。」
そして、二つ目に、
「馬に嫌な思いをさせない。」
という2点です。
これは、意外と簡単と書きましたが、
実行するには気配りと忍耐が必要です。
なぜなら怖い思いや嫌な思いをさせないということと、
甘やかすということは別だからです。
日々の飼育の中で、人間とのルールを確立させないと、
両者にとって危険な状況が生まれる可能性もあります。
そのような理由からでしょうか、
馬の社会に身を置くようになって大勢の人たちが、
特に調教を手掛ける人たちが馬を叱っている場面を多く見てきました。
馬のことならなんでも知りたかった私は、
「プロ」と呼ばれている人たちが馬を手荒く扱っているのを見て、
自分もそうすべきだと、
「馬には厳しくしなくてはならない」のだと、
考えたこともありました。
馬が怒られているところに居合わせて、
とても嫌な気持ちになったにもかかわらず、
今度、自分自身で牧場を運営する立場になり、
馬に強すぎる態度で接したこともあります。
馬がやることに対して、責任を負わなくてはならないことをきっかけに
馬には叱りながら物事を教えていくのが最短距離だと誤解したためでした。
人は他人と同じ立場に身を置くことによって、
初めてその人の心境がわかるようになります。
だから、日常の様々なプレッシャーや責務から、
馬に厳しく対応していた人の気持ちも理解ができるようになりました。
特に、実力主義のアメリカでは、結果重視で理想論は通用しにくいものです。
でも、そういった行動がもたらすものは、
いつも後悔の念と、虚しさ、悲しさともいえるような気持ちなのです。
そこには、私が大事にしてきた馬との調和はなく、
好きであるはずの馬は、逆にストレスの元という感覚が生まれつつありました。
人に怒られ怖い思いや、嫌な思いをした馬は、
落ち着きをなくし、人を信用しなくなります。
そのように変わってしまった馬を見るのは、辛いものでした。
そして、人を怖がる馬の様子を見て、
叱ることによって生まれてくるものは矛盾だけだと分かったのです。
扱いやすく乗りやすい馬になって欲しいのに、
向かっている方向は逆でした。
牧場を仕事としてやっていく限り、
私は馬とペットに接するような感覚で付き合うことはできません。
なぜなら、ここの馬達は自分意外の人も乗ったり扱ったりするためです。
馬たちは、人と一緒に作業し、一緒に仕事をする相棒なのです。
だから、彼らが好むと好まざるとにかかわらず、
人間と一緒にすることには協力してもらわなくてはならないわけです。
でも、馬の協力体制を得るには、
彼らから好かれ、信頼されることがとても大事です。
人を好きで、信頼している馬は、
その人間がしている動作や、言葉、思いに神経を集中させます。
その一方で、
人間を恐れ嫌っている馬は、いつも逃げることに意識がいっているため、
人に注意を向けることはしません。
「すきあらば」 と逃げるタイミングを探しているからです。
前回のブログで書いた、
馬を扱う人間が、その馬から好かれているかどうかが大事だというのは、
このような理由からなのです。
馬に何かを教える前に、まずすべきことは馬との信頼関係をつくる。
それが、一番重要で大切な一歩だと思います。
2016/04/21 3:17:56 | リンク用URL
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