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2013
デューリーに種付けするため、何回となくブリーディングファームへ馬運をし、
体力の限界と闘って、やっと宿ってくれた仔馬。
それが目の前で、あっけなく流れてしまった。
あぁ、また同じことを繰り返さなくてはならない・・・、
とショックで弱気になる気持ちを立て直そうとしていたら、
「それじゃぁ、直ぐに排卵が来るはずだから、今日は馬を置いていってね。」
とあっさり言う、ブリーディングマネージャーの言葉に拍子抜けしてしまう。
牝馬は出産すると、通常10日くらいで来年出産する仔馬の種付けができる状態になる。
今までの経験よりうんと早いので意外だったが、馬の妊娠期間は約11ヶ月。
仔馬は気候が緩やかで、青草が豊富になってくる、春に産まれるのが理想的と思うので、
早々に種付けが完了できれば、来年ギリギリで春の出産となる。
デューリーを種付けするのに、
前回しなくてはならなかった沢山の注射や何往復という馬運を今度はしないですんだ。
私は帰路、空の馬運車を運転しながら先ほど起こったことを思い出し、
やれやれと体から力が脱けていくのを感じた。
生き物は、これでもか・・・と、いつも驚かせてくれる。
馬を預けて5日後、
無事種付けを終えたデューリーをブリーディングファームへ引き取りに行った。
帰り際、今度は牝馬の妊娠継続を促すため、15回分の経口用の薬を渡された。
毎日決まった時間に、1日1回ずつ注射器に薬を入れて口に投与するのだが、
これは注射をするより大変だった。
薬は油のようにヌルヌルしていて、
それを扱うときは自分の肌に触れないようにと指示されたため、
ゴム手袋をしながらの作業なのだが、これがよく滑る。
注射器に入れるときも、馬に与えるときも苦労した。
デューリーは、この薬が嫌いで口の中へ注入しようとすると、
パッとそっぽを向いてしまう。
注射の時は温和しくしていたのに、まったく理解に苦しむ。
たかだか2週間の投薬作業だったが、最後の薬を終わらせたときは、
なにか大仕事をやり遂げたような達成感だった。
もう、やることは自分なりに精一杯やった。
後は、野となれ山となれ。
今度は、デューリーが頑張る番である、・・・と思いつつ、
放牧地へ餌をあげに行くときはどこかに流産してしまった仔馬が横たわってないか、
気にならなかったと言ったら嘘になる。
そんな心配を心に抱きながらの11ヶ月近く、
最初の内はほんの少しずつ、最後の方ではどんどんと大きくなっていく
馬のお腹を見ながら正直、喜んだものだ。
(やっとここまでこぎつけました。臨月に入ったデューリーです。)
大きな最後の山場、
出産予定日まであと2週間となった5月1日から、
私は馬小屋に寝泊まりすることにした。
デューリーは初産なので、
気を付けなくてはならないことがいくつかある。
一昨年、バレンタインが初産だったが、
破水のあとなかなか仔馬が出て来なかった。
馬は横になったまま、必死に息むものの時間がかかりすぎるため、
仔馬の足が見えたときはその足を引っ張って、お産を手伝わなければならなかった。
やっとの事で、母胎から出てきた子馬は仮死状態で、
紫色になった舌をだらりと口から出していた。
体をさすることで直ぐに蘇生をしてくれたが、
少しヒヤッとした出来事だった。
そして、去年は同じく初産の牝馬による育児放棄事件。
その時は、母馬が無事仔馬に乳を与えるのを手助けしなければならなかった。
他にも、母馬が出産を終えて立ち上がるときに、仔馬を踏んでしまうこともあるそうで、
様々な理由から初産には、どうしても人間が立ち会う必要がある。
今年を入れると、3年続けて初産オンパレード。
過去の2回は、ちょっと大変な思いをしたので、
「今度こそスムーズに行くよう、お守り下さい。」
とデューリーの予定日が近づくにつれ、神に祈らずにはいられなかった。
2013/06/08 7:41:21 | リンク用URL
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