アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ

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2013

フチュリティーの裏側 (中 III)

馬は5歳で成長が終わると聞いたことがある。
自分でも馬の生産を手がけるようになり、その成長度合いを身近に見る事ができるのであらためてそれを実感できる。
まだ3歳、4歳になっても幼い印象が抜けない馬達が、5歳を迎えるあたりから体ががっしりと逞しくなり、精神的にも落ち着いてくるのを経験している。


120_2935.jpg


(グラグラとしている乳歯、下の左から2番目)

120_2936.jpg


(まさに今、乳歯が落ちようとしています。 この馬はちょうど満4歳になったところです。)


幼いときは敏感かつ恐がりのためレイニング独特の強い扶助を使えない性格の馬でも、この年齢になるとそれを受け入れられるようになってきたりもする。
いわゆる遅咲きの馬などはこのタイプである。


2004年のオクラホマフチュリティーを観戦に行ったときのことだった。
友人の馬がある著名なトレーナーのもとで、1次予選スコア220点を出してファイナルに残れそうな勢いだった。

私は仕事の都合でそこにいることのできない馬主に替わって、その馬がファイナルに残ることを願いながら2次予選を観戦していた。
走行経過は良く、ファイナル確定だろうと思って見ていたときのことだ。
その馬はストップ、バックアップのマニューバーで素晴らしいスライディングストップをするところまでは良かったが、バックの最中に腰から砕けて転んでしまったのだ。 
あっという間の出来事だった。

当然、結果はスコアゼロで、ファイナル出場はなくなってしまった。
なぜ馬が転んでしまったのかずっと疑問に思っていたが、後にマイクマッケンタイヤーの奥さんにそのことを話したら、
「痛み止めで足の感覚がマヒしていてたぶん自分で自分の足を踏んで転んだのよ。 そういうことがたまにあるのよ。」
というコメントに呆然としてしまった。

私は少し間を置いた後、ずっと心にしまっていた思いをつぶやいた。
「フチュリティーが4歳馬の競技だったらいいのに・・・」
短絡的な自分の意見に、彼女からきっと厳しい返事が返ってくると思い遠慮しながら言うと、
「私も本当にそう思うわ。 フチュリティーは3歳の馬にはきつすぎる・・・」
と予想しなかった言葉がとても意外だった。
なぜなら、彼女のご主人はフチュリティーで優勝することが目標で日々若馬の調教に明け暮れ、このところ毎年ファイナルに馬を残して好成績をあげているからだ。

グリーンウェイランチに来てくれる獣医さんの1人は、アラビアンホースを繁殖している。
トレーナーに預けレイニングの調教を入れて自分でもショーイングするのを楽しみにしている。
話の経緯は忘れたが、あるとき彼から興味深いことを聞いた。
それは、アラビアンホースのフチュリティーは4歳になってからということだった。

また、グリーンウェイランチに来てくれる装蹄師さんは、大手のレイニング牧場を始め沢山のレイニングホースを長年装蹄してきている。
彼とはざっくばらんに話ができるので、ある会話の中でフチュリティーにでる馬の年齢の事をふったら、こんな事を言ってきた。

彼が装蹄に行くある牧場で、馬からはずしたスライディングプレート(レイニングホースの後肢に装着する蹄鉄で、ストップの時に滑りやすくする蹄鉄)を大事にとってあるというのだ。
なにやら名馬が付けていた鉄のことかと思って期待しながら先を聞いていたら、馬がまだ2歳の夏につけていたもので、まるで紙のように薄くなっていてあまりにもすごい(ひどい)ので他の装蹄師仲間に見せるためにとっておいたのだという。
彼は、
「鉄がこれほどまでになるのにどれくらいのストップを馬に要求するか分かるだろう。本当にむごいことをする・・・。」
と言っていた。

その様な若い年齢で沢山のスライディングストップをすれば、馬は売れやすくなるかも知れないが競技馬としての寿命は長くないことは想像できる。
まず飛節がかなりダメージを受けるので、跛行しないようにするためのメンテナンスには苦労するだろう。

この牧場のオーナートレーナーは競技会で良い成績を出しこの地域のオープンクラスではトップを争うが、調教中に馬を死なせてしまうことでも話題になる。
激しいトレーニングのためヒートストローク(熱射病)で調教中に馬が死んでしまうのだ。
ただ、このヒートストロークに関してはこの牧場だけでなく、他でも起こると度々聞くことがある。

幸いにも私が以前いたテキサスとニュージャージーの牧場では馬達のこのような悲惨な場面に遭遇することはなかったが、トレーニング中に起こる馬の事故や故障は数多く耳に入ってきていた。
そしてそのほとんどは急いで馬を仕上げる過程に原因があるような気がしてならないのである。

先に書いたアラビアンホースのフチュリティーが4歳なら、ヨーロッパで行われるレイニングのフチュリティーも4歳だと聞いた。
レイニングの発祥地はアメリカなのでよそ者の私がこんな事を言うのはあまりにも不躾だが、アメリカでもフチュリティーを4歳の馬の競技としてルールを改定することはできないものなのだろうか。

そうなればレイニングにまつわるマーケティングに支障をもたらすのは想像できる。
だが、一見マイナス面が多くあるように見えても、大きな視野をもって見ればプラス面が沢山あるような気もするのだ。
この世界で浅い経験しか持たない人間の夢物語だが、もしフチュリティーが4歳馬の競技になったときのことを考えるとちょっと楽しい気持ちにもなるのである。

2013/02/10 10:27:48 | リンク用URL

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