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2012
2012年3月
やっとの事で、親子馬のきずなを繋ぐチャンスが訪れた時
子馬の側に連れてきた母馬の後駆が小刻みに震えているのに気がついた。
この震えは出産による痛みと恐怖が原因しているのだろう・・・。
そして、その原因となった子馬に対して、
母馬は恐怖心や敵対心を持ったのだと自分なりの推測をし、
その痛みを取ることによって育児拒否の行動は、
改善されるのではないかと感じた。
それに、体に痛みがある状態で授乳を促すのは難しいと思い、
私は再び牧場の娘さんに電話で指示を仰いだ。
この状況で使用してはならない薬を使いたくなかったからだ。
彼女は、与えても良い痛み止めと鎮静剤の種類を教えてくれた。
両方とも常備薬としてあるものだ。
鎮静剤は母馬が仔馬に危害を与えるチャンスを少なくするために使用する。
その他に、母乳がちゃんと出るかの確認が必要だとアドバイスを受ける。
もし母乳が出なければ人工哺乳をせざるおえないので、
親子のきずなを作る作業は必要ないからだ。
痛み止めは口から投薬できるものを持っていたが、
鎮静剤は首の静脈に注射する必要がある。
こんな時は、やはり1人だととても不自由だ。
放牧地には馬を繋ぐところがないので、
1本の引き手を頼りに一人で馬をコントロールしなくてはならない上に
注射針を刺すときに馬が動いたら血管を狙うのは難しい。
そして、もし失敗すれば助手なしでは2度目に針を刺すのは至難の業になる。
馬は逃げられると分かるとまず同じ事はさせないから
失敗は許されない状況だった。
鎮静剤の入った注射器を右手に持ちながら
私は再び高鳴る鼓動を抑えるために深呼吸した。
緊張が母馬に伝わらないようにゆっくりと息をしながら、
左手の親指と人差し指の間に引き手を置いた。
その手で馬の首の側面下に平手を当てるようにして、
親指で血管のある所を押すと血管が浮いて出た。
じっとしていてくれることを祈りながら、
「よしよし、お願いだから動かないでねぇ・・・。」
と静かに声をかけながら、スッと血管目指して注射針を入れる。
母馬は針が刺さっても静かにしていてくれた。
「良い子だねぇ〜、もうちょっとだからね・・・。」
また話しかけながら、今度は血管にちゃんと針が入っているか確認するため、
注射器の薬を押し出す部分を引く。
パァーッと勢いよく血液が注射器の中へ流れこんで、
上手く的中したと分かったときの安堵感は何とも説明できない。
鎮静剤が効いて、頭が下がってきた馬の首を何度も愛撫しながら、
「ありがとう・・・」
と思わずつぶやいてしまった。
母馬はなんとかなりそうな状況になったが、次は仔馬である。
木の臭いのするものを、自分の命をつなげる存在と認識してしまった仔馬に、
「そうではない。」・・・と、
どう分からせれば良いのだろう。
またブツブツと頭を巡らせながら、
とにかく指示されたことはやってみようと、
持ってきた後産を仔馬になすりつける作業にとりかかる。
木の柱は放牧地の四隅に立っていて、
仔馬は母馬と角の木枠で囲まれた状態になっていた。
鎮静剤でボーッとしている母馬を引手で持ちながら仔馬の近くに立たせ、
(きっと驚くだろうなぁ・・・)
と思いながらゆっくりと後産を仔馬の背中に置いた。
仔馬が飛び跳ねてどこかへ行ってしまわないように、
動いたら自分の体でブロックできる体勢をとっていた私は、
後産を乗せたその小さな背中が、
じっと動かずまだ目の前にあったので意表をつかれてしまった。
訳が分からない。
私が体に触れるのはあんなに嫌がったのに、
まるで後産はセーフだという感覚が体に残っているような様子だ。
本能と言って良いのか、生きるための体に染み着いた知恵とでも言うのか・・・。
(通常の出産シーン。産まれたばかりの仔馬です。 お母さんと繋がりを作ってる状態です。 2011年撮影)
私は、仔馬が動かないのを良い事に、
触られるのを一番嫌う頭部周辺も
後産でタオルを使う時のようにしながら首から頭へとさすった。
これだけすれば充分だと思い、
手を仔馬の顔から放そうとした瞬間に、
また信じられない事が起こった。
顔から離れていく後産の臭いを追うかのように、
仔馬の鼻面が私の手の行く方向に動いたのである。
後産の作業は、母馬に我が子を認めさせるための行為だと思ったが、
仔馬に対しても効果バツグンで、ちょっとした偶然からの大発見だ。
牧場の娘さんは、母乳を絞りその臭いで仔馬を誘導するように言ってたが、
出るかどうか試しにしぼったら、確かに白い乳は出るが、
ジワッと滲み出るようにしか出てこないため
後産を母馬の腹部や後足の間になすりつけて、乳房へと誘導することにした。
この方法は面白いほど効果があって、
仔馬はハタと夢から覚め我に返ったような様子を見せ、
後産の臭いのある母馬の後足の方へと誘われていった。
そして、生まれたての仔馬がみんなするように、
初めは母馬のお腹や後足を鼻でつついたり、
舌で触れたりしておっぱいを探し始める。
そんな仔馬をうとましく思ったのか、
母馬は鎮静剤が効いているにも関わらず、後ろ足で払おうとした。
(仔馬はあちこちお母さんの体の臭いを嗅ぎながらおっぱいを探します。母馬は仔馬のお尻を鼻で押して乳首に誘導することもあります。)
(行きすぎてお腹の下をくぐってしまいました。)
(そしてやっと目的を達成することに成功しました。ここまでくれば一安心できます。)
私はそんな母馬の行動をたしなめたい衝動にかられたが、
強く蹴る様子はなかったので、
今は精神的な安定が一番大切だと思い、
神経を逆なでするようなことは避けるようにした。
「よーしよし・・大丈夫だよ。恐いことなんにもないよ。仔馬がお腹空いてるって・・・、
おっぱいあげようね。」
母馬の背中をゆっくりとさすりながら、静かに話し続けた。
仔馬は足で払われる度にヨタヨタ、フラフラし、
あとちょっとで乳首を探し当てられるというところで、
目標から遠ざけられてしまう。
それなのにこの仔馬は臆することなく、
果敢に母馬に近づき、おっぱいを飲もうと挑戦し続けた。
見ていてハラハラしたが、本能に動かされながら生きるための行動をし続ける
仔馬の一生懸命な姿に胸を打たれた。
なんとか仔馬の力になろうと、私は右手に引き手を持ちながら、
同時に母馬の右前足を持ち上げてみる。
本気で仔馬を蹴るつもりなら、こんな方法で阻止は無理だが、
これが功を奏した。
何回かの挑戦のあと、
仔馬は静止してる母馬の後足の間に上手にもぐる事ができ、
「そこだよ!頑張れ!あともうちょっと!」
と声をかけた時には、既におっぱいにたどり着いていて拍子抜けしてしまう。
それにしても美しい光景だ。
ここまで来るのに大変な思いをしたせいもあるが、
今までで一番感動的な親子馬の姿がそこにあった。
いつまでも遅れを取り戻すかのように、
ひたむきにおっぱいを飲む仔馬を見ながら
ぐっと来るものがあり、涙が出てしまう。
もちろんその時の私は、次に起ころうとしている
バトルの事などは予想だにしていなかったのだが・・・。
2012/04/17 9:17:58 | リンク用URL
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