アメリカ・ノースカロライナ州にある日本人向けの牧場「グリーンウェイランチ[GREENWAY RANCH]」ブログ

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Apr

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2012

春の大奮闘 B、放棄された子馬

2012年3月31日

体調の悪そうな子馬の様子を見るために、
家を飛び出し、繁殖牝馬の放牧地まで小走りで行った。

放牧地を囲う電気が流れるロープの間をくぐり抜けると、
シェッドへは深呼吸しながらゆっくり歩く。
足早に動いて馬達を興奮させたくなかったし、
はやる自分の心も静める必要があった。

シェッドまであと数メートルというところまできたとき、
その反対側からヌーッと1週間前に出産した母馬が姿を見せた。

「ダメじゃない! 子供を置き去りにして、なにしてたの・・・」
と、具合の悪い子馬に近づきながら母馬に声をかけたら、
彼女の後ろからもう1頭子馬がひょっこり姿を現した。

(えっ!!)
と思った瞬間、やっと事態が飲み込めた。

体調が悪いと思った子馬は、
昨日検診を受けた牝馬が産み落としたものだったのだ。

きっとシェッドの中で出産して、
まだ子馬が立てない内に置き去りにしたのだろう。
ずっと向こうの離れた所で草を食べている牝馬の近くに、
後産が落ちていた。

育児放棄だ!!
・・・と思った瞬間、頭の中が真っ白になった。


100_0109.jpg


(当たり前のように思っていた、母馬が子馬に授乳する光景 2008年撮影)


グリーンウエイランチを始める前にも、
他の牧場で行く度か馬の出産に立ち会う機会があったが、
母馬が自分の子馬に興味を示さない・・・、
こんな状況に出くわすのは初めてだった。

可哀想に、
子馬はシェッドの内側に張ってある木の板を母馬の体と思ったみたいだ。
おぼつかない足取りでフラフラしながら、
小さな鼻面で板をまさぐりお乳を捜している。

そこには哀れな子馬の姿があったが、
最初に懸念した病気でも、怪我でもなかった。
それを確認できただけで、気持ちは少しづつ落ち着いてきた。

ただ、この状況にどう対応して良いのか分からなかったので、
週末で申し訳ないと思いながらも、
ドンペリドンを教えてくれた牧場の娘さんに電話をした。

「産まれたの?」
彼女は、着信で私からの電話と知ったのか、挨拶する前にいきなり切り出した。
馬を扱う人は感の鋭い人が多い。

「うん、放牧地で産んだんだけど、母馬は子馬に全く無関心なのよ。」

それを伝えると、母馬が子馬をアタックしないことを前提に、
何をすべきか、彼女は指示を出してくれた。

「なるべく触らないようにして、子馬を馬房に移動しないとね。 
そこで母馬に授乳するようにしむけるの。 その時、後産を子馬になすりつけるといいわ。 
わたしも以前そんな事があって、子馬がお乳飲むまで5時間かかったわよ。」

子馬を馬房まで移動する、という話に私は困惑した。
「馬房までかなりの距離があるの。 1人で連れて行けるか・・とにかくやってみる。」
私は戸惑いながらも、そう伝えるしかなかった。

ただ彼女が言った、「5時間」 という言葉に少し救われた。 
以前、獣医さんからは、産まれて3時間以内に乳を飲ませる必要があると
聞いたのを覚えていたからだ。

どちらが正解か分からない。
きっとどちらも正しいのだろう・・・。 
ただ、現場で実際に経験した人の話は説得力があった。

「もし、ダメだったらまた電話して。 手伝いに行くから。」

娘さんのそんな言葉を最後に電話を切った後、
私は一人取り残されたような孤独感に浸った。

彼女は私がこれからやろうとしていることが、
大変なことだというのを知っていた。

私も想像しただけで、ほとんど1人では無理だと思った。
そして、こんな風に弱気になる自分を悔しく思った。
相手はたかだか生まれたての子馬ではないか。

(大丈夫、きっとできる。 大丈夫、大丈夫・・・。)
ダメだと思ったときに、自分に言い聞かせる魔法の言葉を何回も繰り返す。
この言葉は嘘のように効果があって、
今までも 「できない」 と思ったことを可能にした自分へのエールだ。

子馬の様子から、産まれてまだ2時間と経っていないはずだった。
まだ、たくさん時間はある。
まずは、この状況で何を最初にする必要があるのか考えを巡らした。



















2012/04/12 10:25:03 | リンク用URL

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