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Apr
04
2012
2012年3月
今年もありがたくやって来てくれた春。
私にとって1年の中でこの時期は、色んな意味で気分が高揚する。
小規模ながらも繁殖を手がけてるグリーンウエイランチは、
オープン以来一番忙しい春を迎えた。
タイミングとは不思議なもので、
なぜか今までで一番出産の頭数が多い今年に限って、
私は1人で牧場の仕事を切り盛りしていた。
周りで見ている皆さんはさぞかし大変だろうと、同情してくださりとてもありがたい。
・・・が、大変ながら本人この状況を結構エンジョイしているのだ。
・・・というか、1人で色々とこなしている内に、エンジョイ以上の感動を覚えるまでに至った。
ポカポカと暖かい日が増えてきて、冬も終わろうとしている頃は、
(3頭のお産、1人では心細いなぁ・・・、無事に生まれてくれればいいけど・・・)
とお腹が大きくなってくる放牧地の牝馬を見ながら思っていた。
だが、手伝いの人がいてもいなくても牧場のことを決断していくのは自分だけ。
そして、人の数に関わりなく何かが起こるときは起こるのである。
そんな現実が突如、身に降りかかってきたのが3月31日の出来事だった。
3月2日が出産予定日だった初産の繁殖牝馬がいる。
この馬、予定日を半月過ぎても全然おっぱいが張ってこなかった。
たいがい出産の3〜4週間前くらいから、ふっくらしてくるものだが、
餌をあげる度に、後ろ足の付け根に2つあるおっぱいをチェックしても
期待に反して何時もそこはペッチャンコ。
それを見て、お産はまだまだ先のことだと思った。
繁殖の経験が豊富な牧場の娘さんにその事を話してみたら、
「今の段階でおっぱいが張ってこなかったら、子馬が生まれたとき大変よ。
人の手でミルクをあげなくちゃならなくなる。 ものすごい労働だから・・・」
馬の出産が遅れる話はよく耳にしたことがあるので、あまり心配はしていなかったが、
空のおっぱいで子馬が生まれることもある、という話しに大慌てをしてしまった。
動物界でもそんな事があるのだ・・・、。
私は獣医さんまですっ飛んでいき、
彼女のすすめる母乳を作る促進剤のような薬を買い、
すぐさまその日から与え始めた。
それは「ドンペリドン」というお酒の様な名前で、
大きな注射器の入れ物にゼリー状の薬が入っている。
目盛りがついていて、毎日5ccを馬の口に押し込んでいくタイプのものである。
1本は5日分あり、それを与え始めて3日も経つと、
少しずつおっぱいがふっくらとしてきたのにはビックリした。
効果がなくては困るのだが、 「薬とはすごい!」 とあらためて思う。
そう言う本人は自然流が好きなのでアンチ薬派なのだが・・・。
ここは背に腹は代えられないので、バランス良く考えることにした。
人手のないところにきて、もし子馬をミルクで育てるはめになったら
何か月とかかる人工哺乳で私の体力は持たないだろう。
そしてなによりも子馬には、お母さんが与える母乳がすごく大切である。
とくに出産直後の初乳は栄養が豊富で、
病気に対する抵抗力をつけてくれるので子馬には欠かせない。
獣医書には、初乳が出過ぎて子馬が飲む前にしたたり落ちているときは、
ほ乳瓶にためて与えるようにと書いてあるほどだ。
(生まれたての子馬、お母さんから愛情たっぷりの初乳をもらってます。)
ドンペリドンの1本目が終わってもまだおっぱいの張り方が足りないので、
また獣医さんまで足を運び2本目を与え始めた頃、今度は変な不安にかられた。
予定日を過ぎて3週間以上経っているのに、牝馬のお腹はそれほど大きく見えない。
(お腹の子は生きているのだろうか・・・。)
そう疑問に思い始めると寝ても覚めてもその事が頭から離れず、
他の繁殖牝馬を種付けに連れて行くとき、
その妊娠馬も一緒に獣医さんに診てもらうことにした。。
細くてなが〜い腕を持つ女医さんは、
馬のお尻の穴にそのか細い腕を二の腕まで突っ込んで、
「うん、大丈夫。 今、子馬に触れたけど、なんかグルって回転したみたい。
多分、近いと思うわよ。」
と言ってくれ、ほっと安堵のため息。
その女医さんが、
「この前はね、わたしが診察した牝馬、次の日に子馬を産んだのよ。」
そばで手伝っている人に女医さんがそんな事を言ってるのを
ボーッと外の景色を眺めながら聞いていた。
その時私は、牧場へ戻ったらしなければならない事を考えている最中だった。
晩から翌日にかけて天気が崩れるので、仕事の段取りを考えていた。
その日のことをちゃんと終わらせておかないと、用事は次から次へと押してくる。
牝馬の診察を終え、牧場に戻って連れ帰った3頭をトレーラーから下ろし、
放牧地に振り分けた。
3頭のうち2頭は空のお腹で今年種付けする馬。
この馬達は一緒に小さめの放牧地へ連れて行く。
お腹の子馬が無事だと確認できた例の牝馬は、
牧場の中で一番奥にある広い放牧地へ連れて行った。
ここは自宅からもっとも近くて馬の様子が家からでもよく見える。
そこには今月下旬に出産予定の馬と10日前に出産した親子馬が放牧してある。
トレーラーから放牧地までの長い距離を引き馬しながら、
さっき聞いた獣医さんの話を思い出していた。
(この馬に限って明日生むことはないよ・・・、まだ体の準備ができてないし・・・
どう見てもまだだよね・・・)
一日千秋の思いでこの数週間を過ごしてきたので、
仔馬は永遠に生まれてこないような錯覚にも陥っていた。
心の中でブツブツと勝手な独り言をつぶやきながら、
放牧地に到着すると牝馬の首をポンポンと叩いて
「良かったねー!。 子馬は元気だってよー。」
そう話しかけながらムクチをはずし、放牧地を後にした。
2012/04/04 2:04:26 | リンク用URL
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